〇 まいどおおきに〜映画メモでおます
悪い冗談みたいなことばかり起きるこの世界で母ちゃんも、僕も、生きて、生きる。1組の母と息子がいる。7年前、理不尽な交通事故で夫を亡くした母子。母の名前は田中良子。彼女は昔演劇に傾倒しており、お芝居が上手だ。中学生の息子・純平をひとりで育て、夫への賠償金は受け取らず、施設に入院している義父の面倒もみている。経営していたカフェはコロナ禍で破綻。花屋のバイトと夜の仕事の掛け持ちでも家計は苦しく、そのせいで息子はいじめにあっている。数年ぶりに会った同級生にはふられた。社会的弱者―それがなんだというのだ。そう、この全てが良子の人生を熱くしていくのだから―。はたして、彼女たちが最後の最後まで絶対に手放さなかったものとは
● 見たものを感じたままに ●
とにかく感動した。「萌の朱雀」以来見てきた尾野真千子の怪演。圧倒され涙した。最後の一人芝居「神様」はまさに、白石加代子を思わせるほど危機迫る情念の演技だった。
なんどもくりかえされる自らに言い聞かせ、つぶやく言葉「まあー頑張りましょう」のひとことがつらい過去、厳しい現実に立ち向かう主人公・田中良子のキックオフなのだ。
若き夫の自転車事故、それも現在進行形の飯塚事件のような設定に世の不合理と彼女のファイティングの原点を見た。
ペダルを踏み違えても罪に問われない不当な裁判が彼女をやさしい鬼にした。幼子を抱え、シングルでもがき生きる。
現代の非情、風俗嬢への偏見、非正規労働への抑圧を跳ね返して底辺で生きる。時に恋への情念の炎を燃やしながらただ生きる。
ラストシーンは秀逸だ。堤防を母子は自転車に乗ってかける。包みかける暮れなずむ茜色の空がまぶしい。新しい二人の旅立ちを象徴するかのようにいつまでも輝いていた。二人の未来を約束するように。
いい映画だ。多くの人に見て欲しい。