紀州屋良五郎の大衆演劇・上方芸能 通信

大衆演劇については全国の劇場や公演場所に出かけ、その地での公演の所感・演出効果・劇団の印象を綴ります。さらに大道芸や上方落語、講談、音頭、漫才、見世物、大道芸、放浪芸、映画評についても思いつくままに書き留めてまいります。 末永くのおつきあいをよろしくお願いいたします。

▩ 映画『護られなかったもの者へ』を見た

〇 まいどおおきに〜映画メモでおます

 

STORY

東日本大震災から9年が経った宮城県の都市部で、被害者の全身を縛った状態で放置して餓死させるむごたらしい連続殺人事件が起こる。容疑者として捜査線上に浮かんだのは、知人を助けるために放火と傷害事件を起こし、刑期を終えて出所したばかりの利根(佐藤健)。被害者二人からある共通項を見つけ出した宮城県警の刑事・笘篠(阿部寛)は、それをもとに利根を追い詰めていく。やがて、被害者たちが餓死させられることになった驚くべき事件の真相が明らかになる。

キャスト

佐藤健阿部寛、清原果耶、林遣都永山瑛太緒形直人岩松了波岡一喜奥貫薫井之脇海宇野祥平黒田大輔西田尚美千原せいじ原日出子鶴見辰吾三宅裕司吉岡秀隆倍賞美津子

スタッフ

原作:中山七里
監督:瀬々敬久
脚本:林民夫
音楽:村松崇継
撮影:鍋島淳裕
照明:かげつよし
録音:高田伸也
編集:早野亮
美術:松尾文子
装飾:大原清孝
VFX:立石勝
スタイリスト:纐纈春樹
主題歌:桑田佳祐

上映時間
134分
 
〇 私の見たまま、感じたまま 〇
 
東日本大震災を背景に、そこでおきたむごい餓死とみせた殺人事件。それを追う県警刑事(安倍寬)。
じつは、深い背景があった。犯人の出逢いは避難所だった。刑事も含め皆が家族を失い喪失感と深い悲しみの中にいた。
 
この映画が問いかけるものは人はひとりで生きていけない。いや共感こそ支え合う「ちから」なのだとう事を投げかけてくる。そのかたちとして「家族」がある。避難所で出会った老女(賠償美津子が好演)
そして青年(佐藤健)小さな女の子(清原果耶)が助け合う中いつしか「家族」になっていった。三人とも深い悲しみの中にいた。事件のきっかけは生存の最後の砦ともいわれる「生活保護」。
 
表題の「護」の字は生活保護の護なのだ。この法の最大の欠陥ともいえる「扶養紹介」という制度が
極限の生活に置かれ申請を思い立っても知らせたくない、知られたくない自身の身ぐるみを剥いでしまう。まだ、この国に残っている人の世話になることを「恥」ととらえる文化の残りかすみたいなものが蜘蛛の糸を断ち切る。
 
この映画は福祉とはなにかを鋭く問いかける。そして、震災という悲しみは同じなのに一番重圧がかかってくるのは生活弱者である事を見事にあぶり出している。
 
犯罪の背景にある深い憎しみと悲しみ……人はその共感すら切捨てどこかへ置き去りにしようとしている。自分だけの幸せのはかなさをまざまざと見る。時代が病んでいる。