紀州屋良五郎の大衆演劇・上方芸能 通信

大衆演劇については全国の劇場や公演場所に出かけ、その地での公演の所感・演出効果・劇団の印象を綴ります。さらに大道芸や上方落語、講談、音頭、漫才、見世物、大道芸、放浪芸、映画評についても思いつくままに書き留めてまいります。 末永くのおつきあいをよろしくお願いいたします。

▩ 映画『ある男』を見た

〇 ひさしぶりのサスペンスだ。

衝撃的な展開で幕を開ける「ある男」(11月18日公開)は、その実、深く心に刻まれる珠玉の感動作である。

今作のジャンルは、いうなれば“ヒューマン・ミステリー”。愛にまつわる真に迫ったテーマを描出し、観客をショックとともに深い情動へと誘う。

日本の映画人のみならず、世界が認めた必見中の必見の“傑作”。その魅力を実際に鑑賞した映画.com編集部が解説していこう。

もしもあなたが“一言では説明できない感動”を味わいたいのなら、なににおいても今作をおすすめする。

 

STORY

弁護士の城戸章良(妻夫木聡)は、かつての依頼者である谷口里枝(安藤サクラ)から亡き夫・大祐(窪田正孝)の身元調査を依頼される。離婚歴のある彼女は子供と共に戻った故郷で大祐と出会い、彼と再婚して幸せな家庭を築いていたが、大祐が不慮の事故で急死。その法要で、疎遠になっていた大祐の兄・恭一(眞島秀和)が遺影を見て大祐ではないと告げたことで、夫が全くの別人であることが判明したのだった。章良は大祐と称していた男の素性を追う中、他人として生きた男への複雑な思いを募らせていく。

キャスト

妻夫木聡安藤サクラ窪田正孝清野菜名眞島秀和小籔千豊、坂元愛登、山口美也子、きたろう、カトウシンスケ、河合優実、でんでん、仲野太賀、真木よう子柄本明

スタッフ

原作:平野啓一郎
監督・編集:石川慶
脚本:向井康介
撮影:近藤龍人
照明:宗賢次郎
美術:我妻弘之
録音:小川武
装飾:森公美
スタイリスト:高橋さやか
ヘアメイク:酒井夢月
音響効果:中村佳央

上映時間
121分
 

〇 予告編

 

 

〇 見たままを感じるままに 〇

 

平たく言ってしまえば人生は過去も未来もない、あるのは「今」だけだ。

 

それが、身に染みる映画だった。

 

愛した夫が別人だった。信じた人は事実・真実で、戸籍がロンダリングされたものだとすればあなたならどうする?

 

これは、だれしも難問だ。私が愛した人は誰だったのか真相を知りたくない人などいないはずだ。

 

本来、戸籍、名字というものは「記号」のようなものと無機質にわりきれば犯罪も、ミステリーもなりたたない。

 

さらに、国籍も、差別も飛んでいく。しかし、現実はこの無機質ともいえる戸籍・姓にしばられ、しがらみの中で生きていくしかない。

 

しかし、生きている実感、幸福感、充実感は別物だ。

 

殺人犯を父にもった男は一旦は、自分の過去を憎み、父を憎み消えたい、消したいと思ったに違いない。

 

しかし、自分の中に父を見ると恐ろしさと同居する父への愛が押し寄せてきてどうしようもない

衝動に駆られる。

 

やっと人としての安らかなよろこびに浸ることができた。自分を取り戻すことができた。

幸の中で生は終わりを遂げる。その時を共有した妻にとっても「たのしい人生」だった。

 

いみじくも、ラストに妻が語る言葉はこの映画のすべてを言い尽くしているように思える。

 

「ほんとうの事を知る必要はなかったのかもしれない」

 

「子がうまれ、楽しい人生があった事だけは事実なのだから」

そう、それでいい。

 

銀河系の宇宙からみれば過去も、未来も、現在までも、芥子粒ほどのつかの間の人生なんだから…