〇 まいどおおきに~観劇メモでおます
第一部 書き下ろし創作狂言『その後の牙次郎』(澤村龍司作)
大衆演劇で最もよく演じられる演目の1つに、上州土産百両首と言うのがある。劇団によっては月夜の一文銭とかの名称で演じられる場合もある。もともとは河村花菱の戯曲で、「O・ヘンリーの『20年後』と言う作品を翻案下もと言われている。」松竹新喜劇においても、藤山寛美の当たり狂言でとても有名である。
今回はその話の続編として、新たに澤村龍司座長が、息子・幸四郎の27歳誕生日公演のために、書き下ろした台本である。
外題が『その後の牙次郎』と聞いたとき、どんな話になるのやらと期待が膨らんだ。
まずは、澤村龍司座長のひとり芝居を思わせるナレーションで背景となる作品の語りからはじまる。
凝った演出だ。前作を知らなくてもすうっと入っていける細かい演出だ。
いつか生まれ変わったらほんとうの兄弟でいようなと懐かしい兄貴の声がする。 そして、幕が開く。
泣くの涙で、兄貴と慕う正太郎を縄にし、100両と言う大金を手にした、蛾次郎は捕り縄を持つ身でありながら、いまひとつ、生きる望みを失った抜け殻のような生活を送っていた。大金を使って、喜べる相手もやりたいことも見当たらない。虚ろな日々であった。
牙次郎は死罪であの世に行った佐次郎の後を追いたいとさえ思っていた。互いに肌身離さず持っていた一文銭が泣いているよう思えるのだった。片割れの一文銭の行方をとりかたの親方も捜してくれていた。
いま逃亡している捕り物、その男の名は佐太郎。その男を縄にするのが今の牙次郎の役目だ。
この佐太郎ももとはヤクザ、いまは足をあらい堅気の身になっている。力を貸したのは英二郎親分だった。
佐太郎を訪ねた親分は妹のおみつの養女縁組と縁談を知らせに行く。
ついては、仮祝言に出てやってほしいと伝える。
前科を悔い怯む佐太郎にさとす親方。仕度まで調えてやる。
親方が帰るやいなや、駆け込んできた妹。聞けば、掛け取りで貰った大事な百両を暴漢に襲われ奪われてしまったという。カネは必ず取り戻してやると誓い、兄の佐太郎は表に飛び出した‥
さあ、これからがはじまりだ。
因果はめぐる火の車、輪廻転生は世の習いか‥螺旋階段のような因果物語は段々と佳境へと向かう。
ラストシーンに描いた、家族再生の物語に澤村龍司の熱い思いを見た。たとえ、血のつながりはなくても『家族』になれる。そして、その絆はつよく、けっして、離れることはないんだと。
これからが澤村龍司の芝居狂ワールド、再演ある事に期待しつつ、ここで留め置くことにする。
〇 配役
我次郎‥澤村幸四郎
佐太郎‥黒潮音之
佐太郎の妹おみつ‥澤村百々
番頭‥澤村天地
大旦那‥澤村龍司座長
目明かし音松親方‥澤村蒼愛
目明かし英二郎親方‥澤村雄馬座長
村のならず者‥美月凜
下っぴき‥おちょこ
ほか
〇 口上挨拶‥澤村雄馬座長
なんと座長の独断で通常1500円の前売り券を1300円にて提供しておりますと
〇 第二部 舞踊ショー
芝居狂といわれた男・初代源之丞、あの朝日劇場や木馬館で命知らずの四つ綱張って怪猫劇を演じた怪人その、芝居魂を今に受け継ぐために生を受けた澤村龍司の熱い舞台に期待している・紀州屋良五郎