紀州屋良五郎の大衆演劇・上方芸能 通信

大衆演劇については全国の劇場や公演場所に出かけ、その地での公演の所感・演出効果・劇団の印象を綴ります。さらに大道芸や上方落語、講談、音頭、漫才、見世物、大道芸、放浪芸、映画評についても思いつくままに書き留めてまいります。 末永くのおつきあいをよろしくお願いいたします。

▩ 映画『PERFECT DAYS』を見た

〇 昨年見た 51本目の映画がこれ。
(C)2023 MASTER MIND Ltd.
〇 予告編

 

STORY

東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山(役所広司)は、変化に乏しいながらも充実した日々を送っていた。同じような日々を繰り返すだけのように見えるものの、彼にとっては毎日が新鮮で小さな喜びに満ちている。古本の文庫を読むことと、フィルムカメラで木々を撮影するのが趣味の平山は、いつも小さなカメラを持ち歩いていた。

キャスト

役所広司柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未石川さゆり田中泯三浦友和、田中都子、水間ロン、渋谷そらじ、岩崎蒼維、嶋崎希祐、川崎ゆり子、小林紋、原田文明、レイナ、三浦俊輔、古川がん、深沢敦、田村泰二郎、甲本雅裕、岡本牧子、松居大悟、高橋侃、さいとうなり、大下ヒロト研ナオコ長井短、牧口元美、松井功、吉田葵、柴田元幸犬山イヌコモロ師岡あがた森魚、殿内虹風、大桑仁、片桐はいり、芹澤興人、松金よね子安藤玉恵

スタッフ

監督・脚本・プロデュース:ヴィム・ヴェンダース
脚本・プロデュース:高崎卓馬
製作:柳井康治
エグゼクティブプロデューサー:役所広司
プロデュース:國枝礼子、矢花宏太、ケイコ・オリビア・トミナガ、大桑仁、小林祐介
撮影:フランツ・ラスティグ
インスタレーション:ドナータ・ヴェンダース
編集:トニ・フロシュハマー
美術:桑島十和子
キャスティングディレクター:元川益暢
ロケーション:高橋亨
スタイリング:伊賀大介
ヘアメイク:勇見勝彦

上映時間
124分

〇 概略 〇

 

パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」などで知られるドイツの名匠ビム・ベンダースが、役所広司を主演に迎え、東京・渋谷を舞台にトイレの清掃員の男が送る日々の小さな揺らぎを描いたドラマ。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、役所が日本人俳優としては「誰も知らない」柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞した。

東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。淡々とした同じ毎日を繰り返しているようにみえるが、彼にとって日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちている。昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読むことが楽しみであり、人生は風に揺れる木のようでもあった。そして木が好きな平山は、いつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、自身を重ねるかのように木々の写真を撮っていた。そんなある日、思いがけない再会を果たしたことをきっかけに、彼の過去に少しずつ光が当たっていく。

東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを、世界的な建築家やクリエイターが改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に賛同したベンダースが、東京、渋谷の街、そして同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に描いた。共演に新人・中野有紗のほか、田中泯柄本時生石川さゆり三浦友和ら。カンヌ国際映画祭では男優賞とあわせ、キリスト教関連の団体から、人間の内面を豊かに描いた作品に贈られるエキュメニカル審査員賞も受賞した。

 

〇私が見たまま、感じたまま  所感 〇

 

夜明け前の暗い部屋、決まったルーティンがきょうもはじまる。トイレ清掃人の朝は早い。

洗面を済ませ、身支度が調うといつものように鍵をとり、いつものように自動販売機で函珈琲を買い軽自動車に乗り込む。いつものように、カセットテープをセットし清掃現場へと向かう。

 

高速道は空いていて、境界なジャズが染みる。そんな日常の日々が繰り返し映し出されるとそこはもう役所広司の隣人になった気分になる。

 

一見、明日が見える平凡な日々。しばらくの間、この人はどんな過去をもつ人なのか、何を考えて、何がよろこびかなにもわからないミステリー気分に浸る。まるで、主人公と一緒に生きている気分になるなら不思議だ。平凡すぎるのに、表情に喜怒哀楽があり圧倒的な存在感で迫ってくる。この人が主演でないと成り立たない映画だ。

 

ドキュメンタリー映画のようでいて、それではない。中程から、この人物の謎が次第に解けてくる会話がはじまる。石川さゆりのジャズが不思議な魅力を放つ。ひとりで生きていてもこんなに楽しい人生があることを見せてくれる希有な映画に吸い寄せられる。

 

銭湯のシーンで見せる役所広司67才の肉体には筋肉質の役者の魅力と色気が漂う。この主人公には、元妻や子もいて語り尽くせないドラマもあった。だが、そんな過去も『影踏み』のような思い出。語り尽くせなくて切りがない。重なるときだけ濃くなるようなそんなもの。

 

人生って、案外そんなものかもしれない。さりげない日常を圧倒的な演技力で魅せる映画に仕上げた。トイレの掃除のシーンと清掃人にどこまでもこだわったこの映画はまさに前例なき快作だ。