紀州屋良五郎の大衆演劇・上方芸能 通信

大衆演劇については全国の劇場や公演場所に出かけ、その地での公演の所感・演出効果・劇団の印象を綴ります。さらに大道芸や上方落語、講談、音頭、漫才、見世物、大道芸、放浪芸、映画評についても思いつくままに書き留めてまいります。 末永くのおつきあいをよろしくお願いいたします。

▩ 劇団天虎 羅い舞座京橋劇場 2024.02.09 夜の部

〇 まいどおおきに〜観劇メモでおます

芝居 一本刀土俵入り
ラスト 夜桜挽歌
 
劇団天虎連盟表
座長 七星泰河
七星英雄
光はじめ
藤間美香
綾姫
七星あやね
七星愛莉
幸妻弥枝
南條のぼる
音羽屋幸枝
梅沢秀峰
新導あき(マンスリーゲスト)
 
☆特選狂言『一本刀土俵入』
 
【キャスト】
劇団天虎連盟表
座長 七星泰河    駒形茂兵衞
新之助   博労久太郎
七星英雄   博徒
光はじめ   流れの三太郎 親分
藤間美香   我孫子屋の酌婦  お蔦
綾姫   博徒
七星あやね  娘お君
七星愛莉
幸妻弥枝   酌婦お吉
南條のぼる   舟印彫辰三郎・料理人
音羽屋幸枝   利根の老船頭 筋市
梅沢秀峰   清大工  川岸山鬼一郎
新導あき   博徒   弥八
 
 【ストーリー】
 
横綱になる夢を持っていた相撲取りの駒形茂兵衛は、一文無しで困っていたところを安孫子屋のお蔦に金を恵んでもらい助けられる。それから10年、ヤクザに落ちぶれてしまった茂兵衛だったが、お蔦に恩返しを果たすことは諦めきれなかった。やがてお蔦と再会を果たすが、そこに死んだはずの夫・辰三郎が現れる。夫が戻ってきて喜びのつかの間、辰三郎はイカサマバクチで追われる身で、たちまち一味がお蔦の家を取り囲む。茂兵衛は今こそ恩返しだと体を張ってお蔦たちを救い、借りた金を返し、晴れ晴れと「これが“駒形のしがねえ姿の土俵入り”」と静かに言い切った…。
 
長谷川伸原作の代表作『一本刀土俵入』。
 

水戸街道の取手宿、つい眼と鼻の利根の渡しから船に乗れば下総である。茶屋旅籠・安孫子屋の店前。昼飯時が過ぎ、夜の賑いまでののんびり時。板前や女中も表に出て、談笑したり一服つけたりしている。ただ二階の障子が閉じてあるところを観ると、昼日なかから、シンネコで一杯という客でもあるらしい。

 
花道の奥からなにやら騒ぎ声。野次馬のガヤガヤに取巻かれながら、しだいに舞台方向へ。どうやら地元のゴロツキが旅行者にちょっかいを出してるらしい。板前や女中たちは、またかという呆れ顔で奥へ引込む。一団は安孫子屋の前まで来て、またひと騒ぎ。
 
おりしも上手から浴衣がけの長身青年登場。元気なく足元もおぼつかない。聞えよがしに因縁つけて大声で悪態ついているゴロツキの弥八に、ついぶつかってしまう。
「なにしやがんでい」「わざとじゃない、そっちから……」
 
ポカポカポカッ、情ない青年は叩きのめされてしまう。
 
二階の障子ががらりと開く。女。キリッとあだっぽい大年増。やおら盃洗の水を、弥八の頭を目がけてサッとぶちまけた。
 
 「なにしやんでえ。お蔦のアマァだな」
 「静かにおし。そっちこそ頭を冷しちゃどうだい」
 
 「今上って行って、ただじゃおかねえから、待っていやがれ」
 
 「あぁ、来れるもんなら上っておいでな。ここにどなたがおいでとお思いだえ。お前んとこの親分さんだよ。さ、おいでな。じかに叱られてみるがいいや」
 
 「な、なんだとォ。たしかにお蔦のアマァは親分の馴染だ。この野郎、覚えてやがれ」
 
 お蔦の気っぷでその場はどうやら収まった。「お前さんも、とんだ災難だったねえ」というわけで、二階と往来との上下で、お蔦と青年の身の上噺が交される。
 
男の名は駒形茂兵衛、相撲部屋の取的だ。巡業中だったが、お前には見込みがないと親方から追出されてしまった。部屋のおかみさんになんとか取りなしてもらおうと、両国まで歩いて帰ろうというわけだ。一文無しで、この二日というもの水だけを飲んで歩きどおしだという。
 
 「そんな無茶な。千住までだってあと八里はあるよ。それについそこの渡しだって、十六文の船銭がいるんだ。そんな薄情な親方なんぞ、縁がなかったと見切りをつけて、他の道を行っちゃあどうだえ」
 
茂兵衛には家族も身寄りもない。なんとか辛抱して、おっ母さんの墓の前で土俵入りを披露したい一念だという。
 
お蔦は決心したように、紙入れを放る。中には小判数枚。茂兵衛には視たこともない大金だ。髪に差していた櫛やら笄やらをシゴキに包んで、それも放った。
 
「これじゃあ、姐さんが一文無しになっちまう。こんなこたあ……」
 
「いいんだよ、あたしゃあここにいさえすりゃあ、なんとでもなる身だもの。それより渡しの船頭さんから、こんな女物をどこでと怪しまれたら、安孫子屋のお蔦から貰ったとお云い。間違えるんじゃないよ。あ、それから、あんたの四股名はなんとお云いだい? 駒形、そうかいあんたの生れ在所だね。近くへ相撲が来たときには、きっと観にゆくからね。なんとしてでも辛抱しとおして、立派な横綱におなり。おっ母さんに、土俵入りを見せておやり」
 
茂兵衛は、いく度も安孫子屋を振返り振返りしながら、花道を下る。
 
「あれ、まだ振向いてるよ。いいからお行きというのに。いよォ、駒形ぁ~」
 
【前編終了】
 
お蔦の一人娘お君を出す小さな場が挟まって中入りとなる。そして、大詰め(後半)は、年月が経ってからの噺となる。
 
合羽からげて三度笠、長身にして見映えよろしき旅人が、取手宿への道を急いでいる。途中あらぬ人違いから地回りに斬りかかられて、思わず時を無駄にしちまった。陸に引揚げた船の修理に余念がない船大工と船頭、二人の老人に道を訊ね、安孫子屋が廃業して今はないことも知る。この侠客、今はその道に名を知られる駒形茂兵衛である。
 
ほうぼう当って手間の末に、お蔦の居所を訪ね当てた。飯盛り女稼業からはとうに足を洗って、子ども相手の飴屋を生業に、一人娘お君とつましく暮していた。 
 
亭主の辰三郎は腕の好い職人だったが、野望があり過ぎ上を視過ぎる男で、上方へ修業にと言残して旅に出たままいく年も経った。お蔦の腹に子ができていたことも知らなかった。流浪のさなかに伊勢あたりで、偶然同郷人に出逢い、噂話にお蔦が一人娘を育てながら、今も亭主の帰りを待っていると聴いた。ハタッと眼が醒める。東国への道を急いだ。 
 
しかし取手宿が近づくにつれて、なんとも敷居が高く感じられてならなくなる。せめて詫びに添えて手土産のひとつも、の想いがきざして、よせばいいのに流浪のさなかに身に着いた悪習であるイカサマ博打につい手を出しちまった。地回りから追われる身となった。
 
先だって茂兵衛がふいに斬りかかられたのは、辰三郎と人違いされたからである。ということは、辰三郎も見映え様子のよい男だ。 
 
夫婦再会、父と娘の初対面。再会できればこの地に未練はない。追手を逃れてお蔦の郷里へ旅発とうとの相談が進む。 
 
そこへようやくお蔦の居所を訪ね当てた茂兵衛が戸を叩く。早くも追手かと、初めは警戒されたが、どうも様子が違うようだ。その昔、おかみさんからひとかたならぬご恩を受けた者だと名乗る。せめてもの礼だと、夫婦の前に小判の塊が置かれる。 
 
今の夫婦にとっては喉から手の出る大金には違いないが、その「ひとかたならぬご恩」というのに、お蔦は憶えがない。
 
「思い出していただけねえのは、むしろ幸いでござんす。さ、辰三郎さんとやらお支度を。お蔦さんとお君ちゃんもどうか」 
 
追手どもが到着。あの時の弥八は今では親分となっている。数日前、茂兵衛に斬りかかってノックアウトされた奴らもいる。 
 
立回り。茂兵衛は峰打ちと頭突きで、次から次へと倒してしまう。
 
「旅人さん、ありがてえが、手荒な刃傷はどうか……」 「なあに死切りじゃござんせん。やがて、この世へ息が戻る奴ばかり。辰三郎さん、お蔦さんとお君ちゃんを早く」 
 
「それでは、茂兵衛さん。ご丈夫で。」「お名残りが惜しいけれど‥」
「お行きなさんせ早いところで。仲よく丈夫でおくらしなさんせ。」
 
一家三人は、振返り振返り、道を急ぐ。見送りながら茂兵衛は‥
 
「嗚呼、お蔦さん 棒ッ切れをを振り回してする茂兵衛の、これが、十年前に、櫛、簪、巾着ぐるみ、意見を貰った姐さんに、せめて、見て貰う駒形の、しがねえ姿の、横綱の土俵入りでござんす」 
 
三人の幸せ祈り、駒形茂兵衛。
ならず者達を追って蹴散らし、その後は、桜の下に佇み、気絶した者どもを見張りながら‥何を思ったか茂兵衛、思わず懐から煙草を取り出すや、煙草に火を煙をくゆらせる。ぷかり、ぷかりと‥
 
見事にも、かくも細やかな演出に、大拍手だ
 
【補足】
 あまりにも、原作にこだわったキチッとした芝居をを見た。座長が梅澤秀峰先生の指導を受け深夜まで稽古を重ね、セリフを繰った。とくに細部の描写にまでこだわったというだけある。
たくさん、この芝居を見たがここまで原作に忠実な芝居は初めてだ。藤間美香がしみじみ歌う越中・八尾の小原節といい、老舟大工と老船頭の掛け合い。駒形茂兵衞の名乗りと切り出し、仕切りが素晴らしい。最後の始末をつけたあと一服の煙草に火を移してぷかりと吸う場面には、一味加えた余韻が漂い格調高い芝居を見せられた。まるで歌舞伎顔負けの舞台だった。
 
〇 口上挨拶    七星泰河座長

 

 

 

 

 

・外題・イベント日程の紹介
・梅澤秀峰先生の稽古  長谷川伸先生の原作に忠実に
・前売り販売
・日本一の座席数の劇場だが少人数の夜の客席は残念だ、しかしながら、中止になるのかと思いきや奮闘の挨拶、芝居、舞踊を舞台一杯繰り広げた。
ずば抜けた記憶力の座長はいつも、折り目正しい。座長・元座長ばかりで構成されたメンバー編成による実力派公演、どの芝居もショーも見どころ満載だ。
ここまで、礼を尽くし、隙のない芝居を見せられ、行き届いた挨拶までされたらこちらから舞台に「手を合わせて」拝みたくなる。自然と前売り券も買っていた。
 
☆舞踊ショー
客席の2倍の出演者、450席に8人のt観客(夜の部)、(こんな日はたまたまなんだろう)そんな奮闘の舞台を見つめ、ここまでやるか!っと、私はずっと泣けてしかたがなかった。大衆演劇を守りたいと心から願う。劇団天虎バンザイ(劇団花組むらさきも‥)紀州屋良五郎