紀州屋良五郎の大衆演劇・上方芸能 通信

大衆演劇については全国の劇場や公演場所に出かけ、その地での公演の所感・演出効果・劇団の印象を綴ります。さらに大道芸や上方落語、講談、音頭、漫才、見世物、大道芸、放浪芸、映画評についても思いつくままに書き留めてまいります。 末永くのおつきあいをよろしくお願いいたします。

▩ 映画『アナログ』を見た

ビートたけし原作の純愛映画を興味深く見た。泣けないだろうとタカをくくっていたが最後の10分でまんまと泣かされた。

 

〇 概要

STORY

デザイナーの水島悟(二宮和也)は自身が内装を手掛けた喫茶店「ピアノ」で美春みゆき(波瑠)と出会う。手作りの模型や手書きのイラストなどにこだわる悟は、携帯電話を持たないみゆきに自分と似たものを感じる。悟とみゆきは、毎週木曜にピアノで会い、ゆっくりと距離を縮めていく。しかし、みゆきは突然店に姿を見せなくなる。

キャスト

二宮和也、波瑠、桐谷健太、浜野謙太、藤原丈一郎、坂井真紀、筒井真理子宮川大輔佐津川愛美鈴木浩介板谷由夏、高橋惠子、リリー・フランキー

スタッフ

原作:ビートたけし
監督:タカハタ秀太
脚本:港岳彦

上映時間
120分
 

〇 予告編

 

 

〇 私の見たまま、感じたまま 〇

 

一番興味がそそるのは今時、スマホをもたない人とどんな風に恋愛が成立するのかという事だった。なんのことはない、男女の心はそんな夢のない無機質なものがなくても充分通じる。

 

30年ほど前はラブレターというものが厳然とあったのを忘れていただけのことだ。手段なんかどうでもいいのだ。むしろ、スマホなんぞのせいで余計にややこしくなることもあるし、第一、想像をかき立てることもなくなった。

 

この映画のみゆきと悟の二人も、偶然の出逢いと一瞬のインスピレーションがきっかけだ。

二人は行きつけの「ピアノ」というカフェで運命の出逢いをする。

 

建築デザイナーの悟は彼女の持つバックにふと目がとまり、そのデザインに関心をもち会話したことから二人の逢瀬がはじまるのである。携帯を持たない彼女と出会うため毎週木曜日の夕刻、決まったカフェ「ピアノ」で。

 

さすがはビートたけし原作だ。そうすんなりと事は運ばない。彼女が突然約束の日に来れなかったり、彼の出張のアクシデントで遅れて間に合わなかったり、悟の母が病死したりと順調に出逢いは進まない。

 

そして、ついに1年もの長き時が流れる、そのあいだも悟は木曜にはいつもの場所で待った‥リアルならだいたいここでおしまいになっても不思議ではないところだがストーリーは意外な事ずくめで突然急回転し始める。

 

ここからおこることは、スリリングではらはらしながら引き寄せられる場面だ。

 

そして、次第にひとつ、ひとつの謎が解けていく、まるでミステリーの謎解きのように。

指輪まで用意し告白できず待ち続けた女性には、いくつもの秘密があった。

すべてが氷解して、彼女の日記が彼の手に渡る。悟とみゆきの心は出逢いの時に一つになっていた。

 

今はもう、瞬きひとつできないからだの彼女に出会っても悟の気持ちは揺らぐことはなかった。そして、なんどもなんども呼びかける。まるで、はじめて出会った時のように。「私もあなたと一緒にいたい」と思い続けたみゆきの心が動く。そして、指先が、口元が、眼が動く。

奇蹟のはじまりが素晴らしいラストになる。

 

母がなくなる直前に好きな人ができたと語る息子にかけた言葉がこの映画キモだ。

「人には、自分だけの幸せのかたちがある。それを信じて貫きな」と。

とうとうあっしも、泣かされましたね。