〇 浪曲師たちのことを描いた貴重なドキュメンタリー作品を見た
〇近年、たしかな盛り上がりを見せる
寄席演芸の世界。落語、講談だけではない。
いま浪曲が、熱い————。
浪曲師の独特の唸り声、エモーショナルな節回し、キレのよい啖呵。曲師の三味線とのスリリングなインタープレイが、初めて見る者の心をたちまち鷲づかみにする。平成生まれの浪曲師や曲師が育ち、女性の演者が増えた。浅草木馬亭の客席は昔ながらの愛好者と新たなファンが入り混じり、新時代の到来を予感させる。
主人公は、そんな浪曲の世界に飛び込んだ港家小そめ。伝説の芸豪・港家小柳に惚れ込み弟子入りした小そめが、晴れて名披露目興行の日を迎えるまでの物語だ。映画のもう一つの主役というべきは関東唯一の浪曲の常打ち小屋である木馬亭。舞台裏では、さまざまな人生が交錯し、ベテランから若手へと芸が継承されていく。
製作・撮影・監督は、川上アチカ。小そめと同じく小柳の虜になった川上は8年の歳月をかけて本作を完成させた。親密なキャメラは、小柳と曲師の玉川祐子、そして小そめが大切な何かを育んでいく様子を克明に写す。もちろん、迫力満点の口演場面も大きな見どころだ。玉川奈々福、玉川太福など、当代きってのスターたちも顔を覗かせ、たっぷりと楽しめるドキュメンタリー。
〇概要
2023年 / 日本 / 111分 / 東風 配給
監督川上アチカ
編集秦岳志
出演港家小そめ、港家小柳、玉川祐子、沢村豊子、港家小ゆき、玉川奈々福、玉川太福、猫のあんちゃん、富士綾那
公式サイトhttps://rokyoku-movie.jp/
〇私の見たままを、感じるままに〇
実に見応えのある作品だった。港家小ゆきさんの入門動機から師匠に寄り添いながらの弟子入り修行のあれこれを迫るようにカメラは追う。
生の浪曲に親しんではきたが、これほど身近に感じたことがない。そんな気にさせてくれる映画である。まさに「浪花節」だよ、人生はなのである。
藝はこうして伝えられる。そして、伝承とは口移しとか言われるが実は、もっと深いのだ。
生活がまるごと嵌まっているといったらいいのだろうか、そんな気がする。
これは、浪曲だけに限ったことではない。落語・講談、音頭、そして、共生の芸能~大衆演劇においてもまさにこれだ。人生・生活が芸能として昇華していく弟子ストーリーがこの作品に込められている。小難しく考える必要などない。
あなたはただ曲師の音色、合いの手、浪曲師の節回し、啖呵に身を委ね耳をそばだてているだけで、やがて心地よい感覚の虜となる。
いままで、あまりご縁のなかった人も、映画をみればきっと浪曲のイメージが変わることは間違いない。
あゝ、いい映画を見せてもらった。